新卒で入社した呉服屋での実話。
2006年3月16日。
プルルルルルルル♪
休日の朝。布団で寝ていたら、取引先の担当者Mさんから突然電話がありました。
「老害さん、大丈夫ですかっ!?」
私「えっ!?何がですか?」(突然の電話で寝ぼけている)
M「御社が潰れたって聞いて。。。」
私「またまたー何を言ってるんですか」(信じられない)
M「…。とにかく覚悟して出社してくださいね」ガチャ
ツーツーツー。
電話口からのただならぬ気配を感じた私は休日だけどジャケットを羽織って会社に行ってみた。
受付の二人の女性。いつも笑顔をくれる二人の表情が暗い…というか落ち着きがない感じ。
いつも通りに自分の部署のデスクスペースに行ってみるも誰もいない。隣のブース、その隣のブースも誰もいない。まるで休日出勤したかのよう。少し歩いて別の棟に行ってみる。お世話になっている先輩Kさんがいた。
私「Kさん、これって一体…。」
「ん?あぁ、破産。」
一言だった。
私「あぁ、、、そうですか…」(まだ意味がわかっていない)
しばらくすると情報が回ってくる。
「本日、午後4時にこのビルは破産管財人の管理下に置かれます。備品が全て破産管財人のものになりますので、自分の必要な備品は持ち出してください」
背筋が凍った。
当時の会社は小売店として集客が強いことが売りだった。呉服のメーカー、宝石のメーカ、卸問屋は当時の会社内に商品を持ち込み、こちらが集客したお客様に対して、展示会商法を行っていた。
つまり、会社内に、高価な呉服、宝石、アパレルのサンプル品が大量にストックしてあったのだ。このまま破産管財人の管理下に置かれると軒並みこの商品は持ち出せなくなる。
小売店のフロア責任者として「取引先の商品を守らんと!」ととっさに思っ私は携帯を取り出し、私が関係している取引先7社に順番に電話して行った。
「すみません、なんかウチ、潰れたみたいなんです。ちょっと状況がわからないので申し訳ないんですが、御社の商品を4時までに持ち出さないとヤバそうです。私がオオカミ少年でも構わないので、今すぐに取りに来てもらえませんか?」
難波駅のスタバの壁にもたれながら、なぜか見える灰色に濁った空を見上げながら電話して行った。
とりあえず電話し終わって自分のできることをしようと思ってデスクに行き、荷物を詰めていたらしばらくすると2階の大広間に社員全員呼ばれた。
「弁護士の●●です。本件の担当になりました。」
社員自体何百人もいたので遠くの方で弁護士が説明している。
この会社が破産になって、弁護士の管理下に置かれたこと、社長は別の対応で忙しいこと、これからあなたたちの処遇などについて説明すること。
弁護士は仕事なので淡々としていたが、こちらは心中穏やかではない。
ふと私の後ろを見ると、4月から働き始める新卒の大学生の姿が。なんということだ。この子達は、内定先の会社にいよいよ入社する、その2週間前に就職先を失ったのだ。。。
貴殿を解雇します
ぼーっとしていると、一枚の通知を渡される。

解雇通知でした(実際の文書をスマホで撮影)
「当社は、本日、大阪地方裁判所に破産宣告の申立を行うことを決断しました。この旨お知らせしますと共に、かかる事態に至りましたことを深くお詫び申し上げます。前記のような事情により、本日付で貴殿を解雇させて頂きますので、本書面を持ってご通知申し上げます。」
とても、冷たい文章ですね。
「あれ?俺、なんか悪いことしたっけ?」
「解雇させていただく」という文字を見てそう思いました。あれ?解雇ってなんか悪いことしたやつが受ける処分ちゃうの?と。俺、一所懸命3年仕事して来た感じなんだけど、なんで解雇されんとダメなの!?と。
頭の中がぐるぐるとしていました。
おそらく周りの社員も同じだったのでしょう。不意に怒号が飛び交いました。
アホか!というか社長はどこ行ったんや!?社長が説明するのがスジやろが!こんなんで説明されて、はい、サヨナラかいっ!?
いつもはとても温厚な経理のT課長が怒っていました。その怒りっぷりがさすが大阪の南部の会社の集まりです。怖い。。。
弁護士はその辺冷静です。
「社長は今、裁判所からの呼び出しなどに対応しています。」と淡々と説明されています。淡々と説明されてしまうとこちらとしても腹が立って来ます。T課長の怒りはその場にいる人、全員が「そうだ!」と思いました。
あぁ、俺、無職になったんだ。
朝は実感は湧きませんでしたが、解雇通知をもらって、自分のデスクの私物をダンボールに詰めているとじわじわと実感が湧いて来ました。
これは親に報告しておいた方がいいなぁと思い、母に電話しました。
私「なんかうちの会社、潰れちゃったみたい」
母「あら、そうね。アンタこれからどうするの?」
実家の母の、妙に呑気な声にイラつく…というよりも笑けて来ました。ちっ、こっちの大変さも知らないでと思いましたが、そのノンキさに救われた気がしました。
外はとてつもない土砂降り、みんなずぶ濡れ
朝は晴れていたのに、夕方には土砂降りの大雨です。
駐車場から荷物を配送処理して、部署のみんなで高架下でぼーっとしていました。そうすると営業のお偉いさんがずぶ濡れになりながら、走り去って行きました。
「都落ちやなぁ。」
同じ部署のMさんがボソッと呟いたのが印象的でした。
いきなり職を失い、寒空に無一文で放り出された26歳の春
他人事ではありません。私もこの日、職を失ってしまいました。あーあー。と思いながら、次の日、ハローワークに足を運び、失業手当の申請をしました。会社都合の解雇の場合はすぐに失業手当がもらえます。そこは助かりました。
実は潰れる2ヶ月前、2016年1月の段階ですでに転職を考えていた私は転職支援のリクルート系の会社に面談に行っていました。そこの担当者さんが
「これで、本気で探さないといけませんね、次の会社」
と。そこから転職活動が始まり、2ヶ月後、大阪の株式会社船井総合研究所に内定をもらい、転職が完了しました。
遺書
この話にはオチがあります。破産申立をした3日後の2006年3月19日。京都の舞鶴グランドホテルの8階から、社長が飛び降り自殺しました。(詳細はこちら)
今から10年以上前の当時、26歳の私に起こった実話です。
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